2011年受賞者トーク・感想文

【活字部門】

◇大賞 「岐路 大間はいま」(北海道新聞)

 北海道新聞函館報道部  内本智子 (うちもと・ともこ)

 受賞を聞いてうれしいというよりも、びっくりしている。原発が建設される大間と函館は本当に近い。海を挟んで最短18キロ、函館の大森浜から夏、大間で行われる花火が見えた。そんな近い場所に建てられる原発に対し、函館の市民が1昨年、建設差し止め訴訟を起こした。訴訟は道南・函館の人にとって原発は他人事ではない、生活が脅かされるという不安の訴えだった。原発を一から学ぶ取材のスタートだった。まず大間の人たちは(原発建設を)どう受け止めているのか知ろうと何度も通った。感じたのは原発マネーの凄さだった。東日本震災の起きた3月11日。函館の人の不安と、大間の人の不安の向かう先が違うのには驚いた。函館は原発事故への不安。一方で大間の不安は原発工事がストップしてしまうと経済や街づくりはどうなるかという心配だった。その大間でもしばらくして、それまでなかった建設に疑問の声も上がるようになった。大間の現状、葛藤を今後も紹介させてもらいたい。(トークから要約)

◇メディア賞:プロメテウスの罠(朝日新聞、連載中)

取材班代表  朝日新聞特別報道部長 依光隆明(よりみつ・たかあき)

市民の方々に選んでもらったことをとても感謝しています。

この連載の目標は、普通の読者に読んでもらうことでした。ともすれば新聞は手近な取材相手に向けて書いてしまう傾向があります。政治家、官僚、学者、評論家、企業家、などです。しかし新聞を買っているのは読者の人たちです。読者が読んでくれる記事を書かないと意味はありません。

方向性はこう定めました。①住民の視点で、住民が知りたいことを書く。②事実にこだわる。③分かりやすく書く。

事実を掘り当てるにはしつこくアポを入れねばならないし、夜回りも必要です。適当なことを言わせないように、特に官僚は実名で載せることにしました。よほどきちんと取材しないと実名で載せることはできません。あえて難しいハードルを課しました。

うれしかったのは読者の方々の反応でした。紙面で2回、「お手紙、おはがきを」と呼び掛けると350通の手紙、はがきが届きました。どのお便りも取材班を激励してくれていました。「新聞を取っていてよかった」という声もありました。「書いてくれてありがとう」という声もありました。

連載はまだまだ続きます。読者の方々の顔を思い浮かべながら、さらに頑張りたいと思っています。ありがとうございました。

◇アンビシャス賞:ウィキリークスの一連の報道(朝日新聞)

取材チーム代表 梅原季哉(うめはら・としや)=掲載時は朝日新聞東京本社 国際報道グループ次長(現・社会部次長)

ウィキリークスが入手した米国の外交公電のうち未公開だった日本関係の約7000点について我々が提供を受けたのは昨年1月。金銭の授受は一切なく、報道内容についても何の条件もつかないと確認した上のことでした。

 膨大な量の公電を読み込み、既知の事実に照らした文脈の中に位置づけた上で裏を取っていく――砂金探しのような作業でしたが、それを評価していただいたことを光栄に思います。

 日本の政治家や官僚たちは米国の外交官たちを相手にした際、日本国民を相手にするのとは違う言動をとっていました。西南女学院大学の菅英輝教授がいみじくも形容したように「原子力村」にも似た「日米安保村」の存在が浮かび上がってきたのです。

ウィキリークスは、あらゆる情報を公開するという原則にこだわっています。今回の公電群も昨年9月、彼らのサイトで全て公開されました。そうした中、我々のような報道機関の役割は何なのか。正解は簡単には見えてきませんが、今回の報道は一つの可能性を示せたのではないかと思っています。

◇入選:「これからのエネルギー 北大大学院教授吉田文和さん」(北海道新聞 10回連載) 

北海道新聞編集局 加藤雅規(かとう・よしのり)

 東日本大震災、福島原発事故。これだけのことが起きた、「その後」とどう向き合っていくのか。これが連載を創る動機となりました。最初のシリーズのテーマが「原発」になったのは自然な流れです。

 「その後」と向き合わねばならない。しかし、手品のように脱原発の世の中に変わるわけではない。とりわけ子供を持つ親の世代、それより若い世代にとって、「その後」を生きることは重すぎるほどの課題です。

 困難な課題だからこそ、打開するために必要なこと、道筋を示す必要があります。それも、中高生がわかるように。難しいことをわかりやすくという、やっかいな要望に応えてくれたのが、中公新書「グリーン・エコノミー」を書いた吉田和夫北大大学院教授です。

 それまでお会いしたことのなかった教授に、8月になって突然、依頼のメールを出したときは、取材のため訪欧する間際でした。慌てましたが、若い世代に伝えるという趣旨を理解していただき、執筆の快諾を得ました。

10回は異例の長さですが、もっとあっていい、重いテーマです。吉田教授のご協力があってできた連載です。ほめられることに慣れていないのですが、少し調子に乗って、こうした、いい連載を積み重ねたいと思います。 ありがとうございます。

【映像部門】

◇大賞 「ネットワークでつくる放射能汚染地図」(NHK)

NHK放送文化研究所主任研究員  七沢潔(ななさわ・きよし)

 チェルノブイリなどの原発事故を取材した経験から、自分にも出番があるかなと思いながらテレビや新聞を見ていた。ところが、当初、現場で何が起きているか分からなかった。放射能汚染が想像されるのに、何も分からないのであれば、多少危険であっても、自分たちで測定器を持って、自分たちで調査するのが一番いいだろう、と考えた。福島第一原発に向かうと、測定器の針が振り切れた。振り切れるということは、放射能汚染がどれぐらいかも分からないということで、本当に怖かった。チェルノブイリと同じような事故が起きていると実感した。(国などの)“公”が放射能汚染を想定していない、また情報を明らかにしないならば、在野の科学者、志を持った人が福島、東京へ、番組名の「ネットワーク」のようにつながりながら、何が起きているのかを明らかにする必要がある、と思った。ジャーナリストしての基本、当たり前のことをしたに過ぎない。それを評価していただいて有り難い。(トークから要約)

NHK番組福祉部 ディレクター 大森淳郎(おおもり・じゅんろう)

 (政府の意向で立ち入り制限された現場に入った立場からすると)最初、福島第一原発から30キロのところに線が引かれていたわけではない。バリケードがあったわけでもない。そして、その内側には人々が暮らしていた。現場で取材する記者たちに、(30キロのところで)取材をやめて引き返すという気持ちも選択肢もなかった。住民たちは「よくぞ来てくれた」と私たちを喜んで迎えてくれた。取材現場のものとしては、普通のことを普通に行ったという感じだ。もし、それが賞に値するというなら、(自分たちの報道が)普通でなかったということを示しているのであり、そのことがメディアの現状を鋭く写し出しているということだろう。(トークから要約)

◇メディア賞:「シリーズ日米安保50年第2回 沖縄“平和”の代償」(NHK)

NHK沖縄放送局 プロデューサー 宮本英樹(みやもと・ひでき)

今回は大変光栄な賞を頂き有り難うございました。思い起こせば番組のための取材が行われたのは、2009年夏の政権交代から、翌12月の仲井真知事が再選された沖縄県知事選までの1年半。沖縄はもちろん本土の新聞の一面でも毎日、「普天間基地の移設先」について報じられていた頃でした。沖縄に駐留する最大部隊である海兵隊が、もとは本土から移転されてきたという歴史に加え、これまであまり発信されなかった「基地を受け入れた住民」や「軍用地主」の方々の話しをお伝えすることで、「沖縄問題」の複雑さと根深さを少しでも描ければと思いました。あれから1年以上、問題は何ら解決されていません。沖縄県民の県内移設への反対は収まらず、またアメリカ政府の予算削減の動きもあり、辺野古移設は一層難しい情勢となり、普天間基地が固定化されるのではという懸念が高まっています。震災が起きたこともあり、沖縄に関する報道は散発的なものになりがちですが、一方で原発事故が福島で起きたことで、中央と地方の関係を再考し沖縄問題を捉え直す論調も出てきています。我々としましても、本土復帰40年の節目の今年、「経済振興」という名の下にこれまで投入されてきた多額の予算の意図や効果について検証する番組なども手がけております。沖縄自身が抱える問題も含めタブーなく取材を深めることこそ、地元NHKの使命と考えております。今後ともご指導頂ければ幸いです。

◇アンビシャス賞

札幌テレビ報道部 横内郁麿(よこうち・いくま)

 取材には4年前から取り組んだ。(息子の死因を不審に思っていた)父親のことを聞いていたころ、司法関係者からも「死体解剖の現状を知っているか」と指摘されたのがきっかけになった。番組で何より紹介したかったのは解剖のシーン。解剖の意味合い、解剖室で何が行われているかを皆さんに知ってほしかった。警察が立ち会う中で、解剖室にカメラが入れるよう関係者を説得するのに本当に時間がかかった。未熟な自分としては、番組ではこうすれば、ああすればという反省が今もある。しかし、メディアに関心のある市民の活動で賞をもらって、背中を押してもらったようにうれしかった。報道にかかわるみんな同じだろうが、市民から評価してもらうことは本当に励みになる。市民の皆さんを失望させないように、報道し、また番組をつくっていきたい。今後も暖かく、厳しい目でメディアを見守ってください。(あいさつから要約)

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