【映像部門】
▷大賞 BS12スペシャル 「『はだしのゲン』の熱伝導~原爆漫画を伝える人々~」
「日常」を襲う不条理に怒り
BS12トゥエルビ
プロデューサー 高橋良美
この度はこの番組に目を止めてくださり、誠にありがとうございます。
本企画を込山ディレクターから頂いたとき、込山さんは「『はだしのゲン』は『アンネの日記』のような世界に残すべき戦後文学だと思う」とおっしゃいました。その言葉を聞いたとき、「そうだ、私たちがこれを伝えないでどうする」という思いが奮いあがり、企画を通したいと強く突き動かされました。
この番組のテーマは「怒り」です。当日のその瞬間まで、ただただ日常を生きていた人々がなぜ無残な地獄を味わわねばならなかったのか?「悲しい」という言葉と感情だけでは伝えきれない、圧倒的な不条理さがそこにはあります。「悲しみ」ではなく「怒り」を持って、核兵器と戦争の非人道性を伝えたいという気持ちで、この番組の制作に取り組んできました。
ガザ地区や戦火にいる人々は今もなお、このような地獄の中にいることを思うと、80年前の出来事と今がまだ地続きにあると感じます。怒りと言葉で、不条理を伝えていくことが世界を少しでも変えることにつながると信じて。
伝えたかった「ゲンの熱」
東京サウンドプロダクション
プロデューサー 木村利香
この度は栄誉ある賞をいただき、大変光栄です。
近年、伝える媒体が飛躍的に増え、欲しい情報を断片的に手に入れることが効率的だと考える人が少なくない中、社会的課題に深くせまるコンテンツを懸賞する本プログラムは、素晴らしい取り組みだと感じ入りました。
神田香織さんの講談に出会ったのは2023年夏。ドキュメンタリーでご一緒している演出の込山さんが見つけた新聞記事でした。すぐに講談を見て、世の中に伝えたいと企画にしました。そこから約半年後、満を持して「はだしのゲン」の取材が始まりました。
わたしたち制作者の使命は伝えることにあります。世の中に届けるべき生の声には時限があることも痛感しました。中沢さん亡き今、その遺志を伝えるべく活動している皆さまに、心からの感謝と敬意を表します。ゲンの「熱」がこれからも伝わり続け、戦争のない世界が訪れることを願ってやみません。
祖父の無念さが「被爆者」に重なった
同 企画・演出 込山正徳
今回は大変意義のある賞を戴きまして感謝いたします。
中沢啓治さんは広島原爆で家族三人を殺され、その計り知れない無念さを漫画というメディアを使い、世の中に訴えました。今回、その強い思いが私やスタッフにも熱伝導し、このドキュメンタリー番組を制作する原動力となりました。私の祖父は東京大空襲で亡くなりました。そのことは小さなころ、母親から何度も聞かされ、私は「戦争で犠牲になるのは何の罪もない一般市民だ」と教えられ育ちました。私の中に祖父の無念さが宿っているのかもしれません。伝えなければ何も伝わりません。今、戦争を経験した方たちがご高齢になり、体験した事実が伝わりにくくなってきました。そしてこれだけの犠牲があるのに核武装をやめない人類。戦争をやめない世界。この番組を一人でも多くの人が見てくださり、事実を知り、平和への道筋を考えていただきたいと思います。
▷メディア賞 ドキュメンタリー「映像」シリーズ「記者たち~多数になびく社会のなかで~」
「本物」の記者たちに市民の応援を
毎日放送
デイレクター 斉加尚代
市民運動にかかわる皆様が「メディア賞」に選んでくださり、本作の放送から1年余り経ったいま、純粋にジャーナリズムを体現する「記者たち」の存在が人びとに希望をもたらすのだと改めて実感しています。
デマやヘイトがSNS上で大量拡散し、偽情報が国や地域の政治すら激変させてしまう極めて険しい時代において、重要なファクトを掘り起こし、多数派になびく「圧力」をはねのけ、根気よく誠実に、真理と道理を追求してゆく記者こそ、戦争を遠ざける道を照らすのだと身をもって示してくれた人たち。私が出会ったそんな記者たちに心から感謝するとともに、市民の力があってこそ記者は記者であり続けるのだと思います。「あの記者を吊るせ」という声が大きくなる歪な社会の中で、自由に誰もが安心してモノを言える空間の確保が記者の使命にもなっています。最前線に立つ記者たちは、激しく傷つくことも多く、その仕事ぶりが本物か否かは、澄んだ目を持ってそれぞれが判断してゆくしかありません。
もし記者たちが壊れてしまったら、記者でなくなってしまったら、民主的社会が崩壊します。その意味で今回の受賞は、たいへん意義深く、うれしく、最大級の支柱をいただいたような気持ちです。ありがとうございました。
▷アンビシャス賞 HNK・ETV特集「無差別爆撃を問う~弁護士たちのBC級横浜裁判~」
伝えるべきことを掘り起こす
椿プロ
ディレクター 金本麻理子
この度は、番組をご評価くださり心より感謝致します。
この番組は、1人の弁護士の先生との出会いから始まりました。――間部俊明弁護士(当時78)は、神奈川県弁護士会において調査員会を立ち上げ、BC級戦犯裁判の検証に力を尽くされていました。
終戦後、先輩である横浜弁護士会の44人が、米軍主導の裁判に関わることに決死の覚悟で弁護を引き受けた横浜軍事法廷で331件の事件を担当。空襲により日本本土を攻撃した米軍搭乗員が墜落により捕らえられ、彼らを裁き、処した日本軍の法務官たちが裁かれるケースも少なくありませんでした。
“裁くことが裁かれる”、まさに戦争の惨禍の連鎖です。
間部弁護士は、こう熱く語ってくれました。
「戦争の惨禍の中で、被害と加害の連鎖は戦犯を生んだ。そして公平であるはずの“法の支配”は歪められた。
イラク人虐待事件で自国兵を国内法のみで裁いた米国、ロシアによるウクライナ侵攻で起こっている戦争犯罪、“法の支配”が守られないのは、現在も同じだ。75年前、我々弁護士が裁判とどのように対峙し、苦悩したか?
見つめ直すことで今日的な問いかけをしたい」
取材の後半、ウクライナとオンラインで、繋がり、戦犯裁判を取材してきたジャーナリストが、「戦犯裁判にまだ慣れていない私たちにとって、あなたがたの研究はとても参考になる」と語りかけられた時の間部先生の“まだまだ自分たちがやるべきことやらなければ!“、という信念に満ちたお顔が忘れられません。
病いをおして取材にご協力くださった間部先生は、放送の約2か月後、永眠されました。
“多くの命を奪う戦争の惨禍、伝えるべきことを伝え続けないとならない”、
その先生の言葉を胸に刻んでいきたいと思っています。
▷優秀賞 ETV特集「膨張と忘却 ~理の人が見た原子力政策~」(3月2日)
「当たり前の事をする」覚悟を学ぶ
NHK福岡放送局
ディレクター 石濱陵
この度は、栄誉ある賞を頂き、誠にありがとうございます。
数万点に及ぶ膨大な資料を遺してくださった科学史家・吉岡斉さんに改めて深く感謝し、取材に応じてくださった皆様と制作した仲間と、喜びを分かち合いたいと思います。
「当たり前の事を当たり前に言っているだけ」。
それが、吉岡さんの口癖だったそうです。
原子力政策が“膨張”し、後に安全神話と言われることになる過信状態の日本にあって、「利害を超えて、議論を尽くす」、その当たり前が、いかに困難な事だったのか。
吉岡文書を入り口に、当事者たちへの取材を重ねていく過程は、その事を思い知らされる日々でした。
それでも、信念を貫いた吉岡さんが原発事故の後、私たちに託したのは、「被災した人々を“忘却”せず、原子力政策に関心を寄せ監視して欲しい」という願いでした。
受賞をきっかけに、より多くの方に、吉岡さんの生き様と願いが伝わればと思います。
この間に、貴重な証言をしてくださった吉岡さんの弟、拓さんと伴英幸さんのお二方が亡くなりました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
時を逸することなく、記録に残し、検証する。
受賞を励みに、これからも“当たり前”を貫けるように、精進したいと思います。
▷優秀賞 ザ・ドキュメント「さまよう信念 情報源は見殺しにされた」(7月12日)
情報源を守れなかったメディアの責務
関西テレビ
ディレクター 上田大輔
このたびは栄えある賞に選んでいただき誠にありがとうございます。
少年事件と発達障害、取材源の秘匿、検察とメディア。重要な論点が詰まった「僕パパ」事件は、今ではほとんど語られない事件になっていました。あれから17年、発達障害を巡る社会的認知も大きく変わり、事件の教訓を残しておく必要があると思っていました。
番組を企画する段階で2つの点を問いたいと考えました。1つは、検察によるメディアへの介入です。強制捜査で取材源を特定し逮捕起訴する必要まであったのか。そして、当時のマスメディアは検察捜査を監視する視点で取材ができていたのか。この点を振り返ることで、今も変わらぬ検察とメディアの関係が透けて見えるだろうと思いました。
もう1つは、崎濱医師の信念です。少年事件の供述調書をジャーナリストに閲覧させるという大胆な行動。その裏には、少年の将来を憂い発達障害に対する偏見を払拭するためなら医師免許を失っても構わないという覚悟がありました。そのような医師がいたことを今の社会はどう受け止めるのか。これを問うことが、あのとき守るべき情報源を”見殺し”にしてしまったメディアの責務でもあろうと考えました。
番組取材の終盤、企画段階で難しいと思っていたことが実現しました。それは、本の担当編集者へのインタビューです。
「主犯は僕だ」
彼の言葉から情報源と筆者を守れなかった悔恨が痛いほど伝わってきました。この仕事の責任の重さに戦慄が走ったことを思い出します。
▷優秀賞 FNSドキュメンタリー「扉の先に~ゆりかごと内密出産~」
「内密出産」のこどもの幸せ願う
テレビ熊本報道部
ディレクター 尾谷いずみ
受賞の知らせをいただき、驚きとともに感謝の気持ちでいっぱいになりました。
親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる「こうのとりのゆりかご」は、熊本市の慈恵病院が2007年に設置し、2022年度までの預け入れは170人に上ります。
ゆりかごの設置初期に預け入れられた赤ちゃんの多くは多感な年代に成長しており、救われた命が自らの生い立ちと向き合い始めています。
そしてゆりかごの運用の中で、母親の多くが危険を冒し一人で出産して預け入れに来る現状も見えてきたことから、慈恵病院は母子の安全な出産を確保したいと2021年に「内密出産」も導入しました。
熊本にある一つの病院が取り組む「ゆりかご」と「内密出産」。いずれにも通じる課題が子どもの出自を知る権利です。
番組では、母子を支えたいと奮闘する慈恵病院の蓮田健理事長、慈恵病院で内密出産を行った女性、そして「ゆりかご」に預け入れられ成長した10代の少年を中心に取材しました。
「出自」や「生い立ち」が子どもの人生にどんな影響を与えるのか、なぜゆりかごが存在し続けているのか、視聴者の皆様に少しでも考えていただけるような番組を目指すとともに、救われた赤ちゃんの人生が幸多きものであることを願いながら制作にあたりました。
この度は、このような素晴らしい賞に選出していただき、そしてドキュメンタリーに光を与えていただき、本当に感謝しています。ありがとうございました。
▷北海道賞 FNSドキュメンタリー「アイヌとヘイト~文化振興の陰で~」
差別やヘイトから目を背けずに
北海道放送報道部
ディレクター中原達也
漫画「ゴールデンカムイ」の大ヒットや、ウポポイの開業などを受け近年、アイヌ文化への興味関心が非常に高まっています。
一方で、アイヌの人たちを長年苦しめてきた差別やヘイトの現状を取り上げる報道は北海道内でも多くありません。去年、札幌で開かれたアイヌに対する差別的な講演会やそれに抗議する集会を取り上げた放送局は私たち以外にありませんでした。
アイヌや外国人、性的少数者などマイノリティに対する差別やヘイトは今、全国的な問題となっています。
こうした差別やヘイトが無くならない背景にはメディアの及び腰な姿勢も一因となっているのではないかと思います。
アイヌに対するヘイトを巡っては元国会議員・杉田水脈氏のアイヌやマイノリティに対する差別的な言動。ネット上に溢れる「アイヌはもういない」「逆差別だ」といった主張。文化の振興が進むが故に増えている「自覚の無い差別」など、かつて直接的だったものが形を変えてアイヌの人たちを苦しめ続けています。
北海道の放送局としてアイヌ文化に対する注目が集まっている今だからこそ差別やヘイトの問題から目を背けずに、その現状を伝える必要があると感じてこの番組を作りました。
この度、メディア・アンビシャス大賞の北海道賞を受賞させて頂けたことを大変光栄に感じております。ありがとうございました。
▷北海道賞 テレメンタリー2024「沈黙の搾取 見過ごされた障碍者虐待」
原告の訴えで番組を構成
北海道テレビ放送報道情報局 報道部
須藤 真之介
この度は北海道賞に選出していただきありがとうございます。
「牧場主の遠藤さんはそんな悪いことをしない」
遠藤牧場の問題について取材を始めた時、周囲の人からはこのような声しか聞くことができず、原告の訴えは嘘なのではないかと思うほど取材は難航しました。また牧場の取材は許されず、当時の暮らしがわかる写真も 2 枚しかなく、素材も乏しいものでした。
番組でも紹介しましたが原告の1人佐藤さん(仮名)は牧場を離れ、施設や弁護士の支援を受けながら現在 1 人暮らしをしています。いまから 半年前、私が初めて佐藤さんと会った時、冬の時期にストーブが使えない状態でプレハブの中でどのようにして生き延びてきたのか聞いてみると少し笑みを浮かべて「寒くて震えていたけど、布団にくるまっていただけだよ」と話してくれたのが印象的でした。
この番組の放送後、「次回の裁判から原告の佐藤さんが顔を出して出廷すると決めた」と弁護士から連絡がありました。テレメンタリーの放送を受けて支援者や施設の仲間からの応援する声をかけられ「もっと自分の経験を知ってもらいたい」と思ったそうです。
裁判はまだしばらく続きます。私たちは引き続きこの問題について取材・報道し、多くの人に考えてもらう機会になっていただければ幸いです。
【活字部門】
▷大賞 「追跡 公安捜査」(6月15日~10回 別掲8月14日)
記者の存在意義を考える
毎日新聞東京社会部
専門記者 遠藤浩二
この度は栄誉ある賞を頂き、ありがとうございます。
大川原化工機の取材に本格的に取り組んだきっかけは、2023年6月にあった国家賠償請求訴訟の1審の証人尋問でした。捜査に携わった現職警察官から「捏造」発言が飛び出しました。捜査当時、警視庁公安部で何が起きていたのか。検証する必要があると思いました。
この取材を始める上で大きなアドバンテージになったのは、昨年に連載記事で優秀賞を頂いた警察庁長官狙撃事件です。狙撃事件の取材を通じて、公安部がいかにストーリーありきの捜査をしているのか、そして、いかにメディアをコントロールするのかがよく分かっていました。
私は2023年12月から内部文書を入手して、捜査の問題点を指摘する報道を始めました。1面や社会面アタマで記事を書き続けていたのですが、今回の話は、噴霧乾燥器の構造や輸出規制省令が問題となっており、非常に難しい話だと感じていました。そこで、まとめ記事を出したいと思いデスクに相談したところ、「1人称形式で書いてみたらどうか」と提案され、今回の連載スタイルになりました。
昨今、スクープと言えば、「週刊文春」と「しんぶん赤旗」の名前が挙がります。私はこの現状を非常に憂いています。今回の事案は他に類をみない警視庁の不祥事です。しかし、警視庁記者クラブに加盟している多くの社が、捜査の実態に迫る取材や報道を控えていたのが現状です。弊社ですら慎重論がありました。私は逮捕情報を他社に先駆けて報道することよりも、このような不祥事を掘り下げて報道すること、言い換えれば、「明日になれば分かること」ではなく、いくら当局ににらまれようが時間と労力をかけて「明日になっても分からないこと」を追うことが、記者の存在意義だと考えています。
今回、評価を頂いた連載「追跡 公安捜査」は、同じタイトルで先日、単行本を出版しました。連載より数段踏み込んだ内容になっています。興味のある方は手に取って頂けると幸いです。
▷メディア賞 教員わいせつ事件で横浜市教委が「傍聴ブロック」(5月21日)
“取材”公開も信頼回復の一助
東京新聞横浜支局(当時)
記者 森田真奈子
この度は共同通信との同時受賞という形で、市民の皆さんの手でつくる賞に選んでいただき光栄に存じます。
昨年3月に横浜地裁で異様な行列を見かけた際、共同通信の團奏帆記者と「どうにか記事にして、問題提起しなければ」と言葉を交わし合いました。裏取り取材は各自で進めたものの、それぞれが追いかけた傍聴人がいずれも市教委の施設に戻ることを確認し合うなど、時に連携しつつ問題を明るみにしようと歩めたことは心強い経験でした。こうしたメディア同士の連携も評価いただいたと聞き、大変ありがたく思っています。
今回の報道で同時に感じたのは、取材過程を読者に伝える重要さです。横浜市教育委員会が問題を認めて謝罪した翌日に東京新聞では、私が地裁での行列に疑問に感じてから、最終的に市教委職員の出張記録を情報公開請求するまでの流れをまとめた記事を出しました。従来の新聞では一般的ではない、取材過程を書く、というスタイルですが、この記事が広く読まれ、多くの励ましの声をいただきました。読者や市民はやはり、権力監視や埋もれた問題の告発といったメディアの伝統的な役割に期待しているのだと実感しました。現状のメディア不信の一因には、これまでメディア側が取材のプロセスや目的意識などを読者に向けてあまり説明してこなかったこともあると考えています。今回の受賞を機に市民の皆さんの期待を改めて自覚し、メディアの役割に納得してもらえる記事が書けるよう励みたいと思います。
(現在、東京新聞社会部)
原動力は怒りと疑問
共同通信社横浜支局(当時)
記者 團奏帆
通信社で記事を書いていると、読者の方々の反応を目にする機会は多くありません。昨今はインターネット上で反響が見えることもありますが、それでも日常的に読者の声が届く新聞社に比べれば少ないでしょう。今、どんな取材が求められているか。記事は必要十分だったか。常に不安で、自問自答してきた気がします。ですから今回、市民の方々でつくる団体から評価を頂けたのは、殊の外うれしい出来事でした。
横浜地方裁判所で傍聴希望者の行列を何度も見ました。時には、傍聴を諦め引き返す方もいらっしゃいました。私たち報道機関は裁判所に申請して傍聴席を確保してもらうこともできます。仕事ですから、長時間並ぶことも厭いません。しかし、傍聴を希望される多くの方は通常、そうではないはずです。そういう方々を閉め出す行為は果たして許されるのだろうか。そんな、怒りと疑問がないまぜになった感情が取材の原動力でした。
とはいえ、事案は子どもへの性犯罪。被害者や保護者が、知られたくないと願ってのことだったら…? 当事者への接触を試み、傍聴動員の主体を突き止め、専門家の知見を借りたその後の取材は、「これは私の独りよがりな怒りではないと言えるか?」を確認するプロセスでもあったように思います。そういう意味で、東京新聞の森田真奈子記者と問題意識を共有できたことも、大きな支えとなりました。
受賞を励みに今後も取材を尽くし、社会に生きる誰かに届く記事を書けたらと願ってやみません。
(現在、共同通信社東京エンタメ取材チーム・文化部)
▷アンビシャス賞 「裏金 非公認側にも2000万円」(10月23日)
問われるメディアの「権力監視」力
しんぶん赤旗編集局
社会部長 三浦誠
裏金づくりで非公認になった候補者へ自民党が政党助成金2000万円を支給したスクープは総選挙の投票行動に大きな影響を与え、自公与党過半割れという結果につながりました。このスクープには、二つの意義があるといえます。
第1に公平公正であるべき選挙を歪める政権党の卑劣な手法を明らかにしたことです。石破茂首相は裏金づくりで処分された議員を公認しないと公言しました。この発言は広く報道され有権者に伝わっています。しかし実際には非公認候補にも公認候補と同じ金額が選挙中に支給されていました。これらは事実上の「裏公認」であり、有権者をだまして選挙を乗り切ろうとしたといえます。民主主義を守る上でも大きな意味がある記事だったと考えます。
第2に多くのメディアが「公正公平」の文言に捕らわれ、型どおりの選挙報道をするなかで、ジャーナリズムの本分である「権力監視」の役割を果たしたことです。選挙になるとメディアから調査報道が消えるということが長年繰り返されてきました。この結果、候補者の主張をそのまま伝える報道が蔓延しています。候補者が「発言した」というのは事実でしょうが、その発言内容が真実であるとは限りません。最近の選挙では、明らかなフェイクを垂れ流す候補者が出ていますが、メディアは選挙期間中に批判ができていません。権力監視の視点で取材、分析し、報道することがいま報道機関に求められています。
▷優秀賞 「最後の砦 刑事司法と再審」(23年~24年10月)
「再審」の不備をただすのは市民
静岡新聞社社会部
記者 佐藤章弘
思いがけず栄えある賞をいただき、ありがとうございます。静岡の報道に目を留めてくださった方がいたことに驚くとともに、市民の方に評価していただけたことを何より光栄に思います。
袴田巌さんの弁護団では札幌の弁護士が活躍されているほか、再審開始・再審無罪の原動力となった鑑定を手がけたのは旭川医科大と北海道大の専門家です。北海道との縁なくして雪冤は果たせませんでした。
袴田さんの再審可否決定が迫る中、経過が浮き彫りにする再審法(刑事訴訟法の再審規定)の不備を問おうと2022年末に始めたのが本企画です。
捜査機関の手元に残された証拠の開示を制度化すること、再審開始決定への不服申し立てを禁止すること―。こうした訴えは実は、同じく静岡県で発生した「島田事件」の支援者らが40年近く前から指摘してきたことです。しかし、課題は放置され、現在に至ります。袴田さんの再審と再審法の改正を両輪にした報道は地元紙の責務だと考えました。
歴史をたどれば、法改正を拒んできたのは法務・検察だと分かります。取材を進めるうち、法改正を実現する上での「最後の砦」は立法府だと思うようになりました。24年に誕生した超党派の国会議員連盟への入会者は全議員の半数を超えた一方、法務省は突如として法制審議会への諮問を打ち出しました。議連は議員立法による25年早期の改正を目指していますが、議員を後押しできるのは市民の声に他なりません。
島田事件を含め、死刑囚の再審無罪が4件続いた1980年代でさえ、法改正はなされませんでした。関心の低下があったと聞きます。同じ轍を踏むことのないよう、改正が実現するまで取材を続けます。
【選考概況】映像、活字ともに例年より倍近い推薦候補が並び、一次選考でそれぞれ半分前後に絞った。部門別の評にも重なるが、映像部門ではパレスチナのガザやウクライナの戦争など「目に訴える」ドキュメントが候補に多くあげられ、「活字部門」では裏金問題はじめ取材を積み上げて「読ませる」候補が多く残りました。当たり前の話なのですが、それぞれのメディア特性がより色濃く表れた候補推薦と選考だったと思われました。
【映像部門】1次選考で推薦58件から時事性の強い作品33件に絞られました。原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」を取り巻く最近の状況を描いたBS12スペシャルは、21年の大賞以来2回目の受賞です。東京局とは言え地味な放送局の心意気にあふれていました。真摯に取材に励む記者たちを描いたメディア賞の作品は、最近「メディア不信」の2文字にさらされる現場からの反証のように感じられました。
【活字部門】55件の候補から1次選考で23件に絞られました。大賞に選ばれた毎日の「追跡 公安捜査」は捜査側内部からも捏造を指摘された大川原化工機事件を主な題材に置いていますが、過去の公安事件も織り込んだ長年の蓄積を生かしたものです。自らの課題とする事案に長年向き合い、モノにする記者の姿勢が好感されました。選考でも他を圧倒しました。アンビシャス賞は大手メディアの中で奮闘する新聞赤旗の功労に対する市民からの拍手です。(文責・山本)
その感激のままに、この図図しい感想文依頼の経過を少し振り返ってみる。第1回表彰式では式参加の受賞者のコメントを織り込んだ報告記事を作成した。そのコメントがとても興味深く、面白いので、何かに残せる工夫はないかと思った。そこで第2回からは表彰式の記事とは別に受賞者の言葉を独立して扱うこととし、札幌から遠い受賞者には「式で紹介するコメント」を依頼した。
簡単なコメントを予定していたのだが、そこに届いたのが、沖縄のドキュメンタリー監督としていまや著名な三上智慧さん(当時、琉球朝日放送)からだった。受賞のテレビドキュメンタリー「英霊か犬死か」は30分間弱と短いが、沖縄戦で戦死した軍人らは靖国神社に「英霊」としてまつられるが、軍拡―戦争の足音すら聞こえる現在、県民はどのように捉えているのかを問う作品だった。
その受賞コメントはなんと本文のみで2191文字の長文。制作者として「犬死」の2文字を沖縄で使ってよいものかどうかの苦悩の吐露をはじめ、現場ならではの火の出るよう文だった。
「靖国で英霊を祀り上げていく力の正体は何なのか意識、無意識下で靖国や天皇制をタブー、聖域視することで、靖国のシステムを支えている多くの国民がその先の運命まで予見しているのか、そこまで考えた時に『犬死』という言葉に気持ちを逆なでされること、怒りを持ってこの問題に向き合わせることこそ必要」と決心し、作品後を「常に問題には中央と辺境が存在し、多重な視点の存在を示し、様々な視座で言葉を発することの重要性をこそ、メディアは伝えるべきであって、国境の島々のジャーナリストはもっと吠えるべき」と総括していた(これまでの受賞コメント・感想文はホームページで読めます)
話を戻そう。この三上さんの感想文には心底感激した。そして味をしめた。受賞者全員、表彰式に参加するもしないも関係なく、第4回(2012年)から受賞感想文を求めた。
ジャーナリズムの果たす役割へのゆるぎない決意あふれる文章が多いのだが、時に社内軋轢を訴える記者やディレクターらの叫びのような言葉が漏れ出ることもある。志を持ちながら孤立したジャーナリストが思い浮かぶ。この小冊子に名前と記録を残した仲間として連携していってくれれば、というのも私の願いである。(山本)
