2019年受賞者感想文

【活字部門】

メディアアンビシャス大賞

「こどもへの性暴力 第1部 語り始めた当事者」(12月2日から6回)朝日新聞

当事者に背中を押されて、やっと記事に

                   東京本社社会部編集委員 大久保真紀

 やっと、本当にやっと、この連載を社会に届けることができました。

 5人で取材班を作ったのは2年前。異動などで途中で3人になり、なんとか取材を続けてきました。原稿を書いてからも、表現や写真をめぐりさまざまな検討や調整があり、掲載までに約半年の時間を要しました。

 私たちが諦めなかったのは、長い間「いたずら」などと軽く扱われてきた子どもへの性暴力の実情と、性暴力がその人の人生にどれほど重大な影響を及ぼすのかを、社会に伝えなければならないという強い思いがあったからです。実名顔出しで記事に出る覚悟を決めた6人の方々の存在も、私たちの背中をさらに前へと押しました。

 今回、メディアアンビシャス大賞をいただき、取材班一同喜びをかみしめています。心から感謝申し上げます。同時に大賞は、私たちだけでなく、第1部に登場した6人の当事者の方々にも与えられたものだと考えています。

 1回目に出た工藤千恵さんに受賞をお知らせすると、「まだまだ歯がゆいこともありますが、声を上げたことが、少し報われたような気持ちです」とメールをくださいました。「性暴力についての理解が深まっていく社会は誰にとっても生きやすい社会になると信じて、もっともっと声を広げていきたい」ともおっしゃっています。

 私たちも第2部以降を続けていきます。引き続きよろしくお願いします。

    (朝日新聞「子どもへの性暴力」取材班)

                 大阪本社生活文化部記者 山田佳奈

                           同 小若理恵

メディア賞

関電役員金品受領問題(9月27日付けスクープを中心に。掲載は道新ほか)共同通信社

〝闇〟から原発マネーを掘り出した

                    共同通信札幌支社編集部次長 長谷川智一

原子力発電所の立地を巡ってはかねてより、電力会社と地元有力者との不透明な関係が指摘されてきました。しかし、その内実は一部を除いて表面化しておらず、今回の取材では、具体的な資金の流れを明確に示し、両者の関係を明らかにすることを目指しました。

 その過程で浮かび上がったのが、関西電力高浜原発の誘致に尽力した福井県高浜町の元助役森山栄治氏でした。関西電力にとどまらず、原発工事など関連業務を受注する企業側にも大きな影響力を及ぼし、40年超に及んだ異様な関係や、巨額の原発マネーの流れの一端を解明できたと思います。

日本の電力会社は「公共事業」と位置付けられ、電力の安定供給の義務を担う一方、総括原価方式で原発建設費など原価に一定率の利潤を加えて電気料金を設定してきました。長年にわたり地域独占が認められていたため、地域の利用者にとっては、他の会社に電力供給を求めることができませんでした。そのため、建設費などの原発マネーが経営陣に還流したり、地元有力者との癒着で工事費が高額発注されたりすれば、電力を利用する生活者が損失を被ることになります。

一連の報道では、この生活者目線で問題の背景を深掘りするよう努めました。

 そもそも関電は報道が明らかにするまで、内部調査をしていたことや関係者の処分を明らかにしていませんでした。このまま問題が埋もれたままでは、原発マネーの経営陣への還流そのものが闇に葬られていたはずです。

 私たちは8年前の東京電力福島第1原発事故で、多くの住民が家を追われました。当時、福島県内で取材に当たった私も、泣く泣く故郷を離れる住民の姿に胸がつぶれる思いがしたのを記憶しています。

 一度の事故で多くの地域住民の生活を狂わす原発に誤りや不正は許されません。今後も電力会社を中心にチェックし続けていきたいと思います。

(関電役員金品受領取材班)

アンビシャス賞

道警ヤジ排除問題 (朝日新聞7月17日付け記事)

「違和感」が取材の発端、道警の暴走暴く

                       北海道報道センター次長 鯨岡仁

輝かしい賞を頂戴し光栄に思います。

2019年7月15日、JR札幌駅前で安倍首相の演説を聴いていたのは、道庁担当の斎藤徹記者とデスクの鯨岡仁でした。その場で「安倍やめろ」などと声を上げた市民を警官が力ずくで排除する場面に出くわしました。「やり過ぎじゃないか」。違和感がこみ上げました。

斎藤記者や、道警の伊澤健司キャップが取材を進めていくと、違和感の正体が見えてきました。道警の説明はあいまいであり、警官の行為は法的根拠が薄弱だという専門家の意見がほとんどでした。選挙期間中だったため、記事は「選挙妨害」と批判されるかもしれないと考えましたが、警察の不当な権力行使を問題視することに焦点を当てて一報を書きました。

思い出した出来事があります。2年前の夏の東京都議選の街頭演説で、「安倍やめろ」コールをあげた聴衆に向かって、首相は「あんな人たちに負けるわけにはいかない」と逆上しました。道警は首相の言動を忖度して、過剰な対応をしたのかもしれません。

ですが、警察の暴走を見過ごせば、市民は萎縮し、息苦しい社会が待っています。戦前の歴史をみれば、明らかです。

メディア側も、感度が高かったとは言えません。おかしいことはおかしいと報じるという当たり前の使命が、いまのメディアにどこまでできているのか。危機感を覚えます。

プロの新聞記者の役割とは何かを自らに問いかけながら、これからも仕事をしていきたいと思っています。

                  北海道支社報道センター記者 斎藤徹

                            同   伊澤健司

  • 道警ヤジ排除問題(「北方ジャーナル」9月号以降の一連の記事)

「言論の自由」を標榜するものとして

                    ライター 小笠原淳

「桜を見る会の徹底追及を」と言えば、「そんなことより新型肺炎対策を」の声が上がる。ニュースに優劣をつけるのはまことに難しいことですが、それでも私は思います。今、「ヤジ排除問題」ほど重要な話題があるだろうか、と。

 報道という商売が成り立つのは「言論・表現の自由」があるからです。エライ人へのヤジもまた、自由な言論の1つです。この言論を警察が封殺しようとした時、普段から言論の自由を標榜している業界が黙っていていいのか、ということです。あの「排除」を認めることは、自分の商売を否定することと同じです。

 という考えでやってきたことで、このような賞をいただくことになるとは思いませんでした。先陣を切った朝日新聞はじめ地元報道大手の仕事に勇気づけられながら、引き続き一人ひとりの小さなヤジに耳を傾け、できるだけ大きめのヤジに増幅していけたらと思っています。

入選

①現場へ!「入管収容という問題」(9月30日から5回)朝日新聞

一括りにしてならない「収容者」の姿を描く

                     東京本社映像報道部記者 鬼室黎

 国内で在留資格を持たずに暮らす外国人や無国籍の人たちを、私が本格的に取材するようになったのは2014年ごろからのことです。連載「現場へ!」には蓄積していた外国人収容や仮放免の問題点を事実に即して凝縮したいと考えていました。

 大村入国管理センターで6月に死亡したナイジェリア人男性の死因が未発表である点に言及したのは連載初回(9月30日夕刊)でした。法務省出入国在留管理庁が「飢餓死」と発表したのは翌日のことです。そのタイミングにはとにかく驚きました。この日は「送還忌避者の実態」と題する資料も配布され、連載への影響を心配しながら編集作業に臨みました。発表は、収容されても帰国しない外国人は凶悪犯だと印象づけるような内容で、取材に基づけば鵜呑みにできるものではありませんでした。

 結果的には、収容施設での医療や懲罰化し予防拘禁とさえ言われる一面、苦しむ家族の存在など描けなかった論点もありますが、入管収容の密室性を柱にして、死亡事例、抑制される仮放免、収容者の精神状態、子どもの存在などを描けたことに一安心しています。

 長期収容されてもなお帰国できない人たちが八方塞がりになっている現実に照らせば、彼らを「送還忌避者」と一くくりにすることが適切な対応とは私には思えません。

 連載はデスクとして根気強く原稿を見てくださった松本一弥さんや丁寧に校閲してくださった杉美和さんの力添えにより実現しました。取材にご協力くださった多くの方たちにもここで深く感謝いたします。

②『幌延延長』問題で現地からの地道で的確な報道

(3月27日以降)北海道新聞

町の未来を見据えて住民の意見を聞く

                天塩支局長(当時) 福田講平

入選に選んでいただき、誠にありがとうございます。報道センター・犬飼裕一記者、関口裕士編集委員の協力と、私の2代前の天塩支局長で現・報道センターの中橋広岳デスクの的確なサジェスチョンがなければ、一連の記事は書けませんでした。この場を借りてお礼申し上げます。

 ただ、栄えある賞をいただいたにもかかわらず、幌延町の将来のことを考えると、暗たんたる気持ちになるというのが正直な感想です。

 幌延町では、経済効果があるため延長容認派が多数を占め、反対派は少数です。町幹部はことあるごとに「なぜ数少ない反対派の意見ばかり取り上げるのか」と記事に不満や嫌みを言ってきます。

 ですが、「少数派の意見も尊重しなければいけない」というのが民主主義の原則です。また、反対派は賛成派から目の敵にされるので反対を公言しにくいという現実も考慮する必要があります。

 経済効果にあぐらをかき、町の「真の体力」はどんどん失われている、というのが実感です。何もしなくても「準・原発マネー」が入るので、町職員も町の人も知恵を絞る必要がないからです。そのせいか、幌延町は「街ダネ」と呼ばれる、街で話題になっている出来事を扱った記事が極端に少ないのです。

 このまま、ずるずると計画の延長が続けば、町はどうなるのでしょうか。過疎化が進み、体力も気力も失った町が「いっそ、核のごみを受け入れて一発逆転を図ろう」という愚挙に出ないよう、日々の報道を続けるのがわれわれ報道機関の役割だと思っています。

                         札幌本社編集局編集委員 関口裕士 

                           同報道センター記者 犬飼裕一

【映像部門】

▼メディアアンビシャス大賞

NNNドキュメント「なかったことに、したかった。 未成年の性被害①」(10月7日STV)制作:日本テレビ

少しずつ学んで深めた問題の奥深さ

                  ディレクター  植田恵子

今回はこのような賞をいただき大変光栄です。アンビシャス、でありたいと心引き締まる思いです。私がはじめて性暴力被害者の声を聞かせてもらったのは10年前。虐待やいじめなど生きづらさを抱えた女の子達に話を聞く中で、多くの子が性的に傷ついていることを知りました。当時の私は「野心」や「大志」からは程遠く、この問題の奥深さをテレビで伝えることは無理なのではないかと途方にくれていたことを思い出します。

親から、知人から、家出先でつながった人から。被害にあいながら、彼女たちは自分の経験を「被害」とは語りませんでした。逃げない自分が悪い、危ないところに行った自分が悪い、自分はその程度の人間だから、別に慣れているし平気、と被害を否定し、ただただ死にたさをつのらせる。自暴自棄な言動から再度被害にあうなど、負のスパイラルにもがく姿は痛々しく、出口がないように感じました。一方、性暴力について学ぶと、彼女たちの「否認」や「再被害」もまた被害の影響であることを知りました。

その後、少しずつ被害当事者の発信が増え、その声を聞く人が増えている中で、今回の番組を制作する機会を得ました。未成年期の被害の葛藤や混乱を言葉に変えて伝えてくださった方々に、深く感謝いたします。現実に起きている痛みを、私たちが「なかったこと」にしてしまわぬよう、今後も当事者の思いを伝えていきたいと思います。

メディア賞

①BS1スペシャル「隠された〝戦争協力〟朝鮮戦争と日本人」(8月18,19日BS1)制作:NHK

不都合な歴史も自らのものに

                   ディレクター 藤原和樹

このような賞をいただけて光栄に思います。なぜ日本人が朝鮮戦争に行ったという事実が隠されてきたのか、取材中考え続けていました。取材で出会ったある男性は、これまで誰にも話さなかった理由として、「40年前に一度NHKの取材依頼を受けたが、理由もなく取材がキャンセルになった。それ以来、この事実は語ってはいけないことだと、自分に言い聞かせてきた」という話を聞かせてくれました。なぜそのときNHKの取材がなくなったのかは分かりません。ただ、歴史に触れても事実を明るみにしなかった取材者がいたことが、男性が話さなかった理由になっていました。今回、極秘文書を目にした自分が、安易な考えで放送を諦めることは、自分もまた歴史を隠蔽することに加担することになるのではないか。“あったことをなかったことにはできない”と強く思いました。

また、米軍は自らにとって不都合な歴史であるにも関わらず、文書を残し未来の審判を受ける仕組みを持っていました。そのことが、今回の取材につながったのです。昨今の日本の政治状況の中で、このことが私たちに問いかけるものは少なくありません。

今回の番組は、番組の編責、プロデューサー、カメラマンたちが、個々にやる意義を見出してくれ放送に辿り着けた点が、制作者として冥利に尽きました。そのことを評価いただいたことに、勇気づけられると共に、心から感謝いたします。

                               撮影 釋河野 公彦      

                               照明 下垣 圭三

                               編集 松森 巧

                               制作統括 松本卓臣 

                                                                                                 

②第33回民教協スペシャル「想画と綴り方 ~戦争が奪った子どもたちの“心”~」(2月11日HBC)制作:山形放送

「過去」と「現在」の類似から伝えるもの

                    ディレクター 熊坂太郎

この度は、弊社の番組を受賞作品に選んでいただき誠にありがとうございます。日夜、報道の仕事に励んでいる私たちにとって大変光栄な賞であり、大きな誇りです。

さて「想画」と「綴り方」は、山形県東根市の小学校に保管されている昭和初期の児童の絵と作文です。当時の農村の暮らしをありのままに表現した作品に私は強く心を打たれました。そして、指導した国分一太郎先生が太平洋戦争の直前、その教育を理由に治安維持法違反で検挙されたことも知りました。取材を始めた頃、国会では「共謀罪」が施行され、治安維持法との類似性が指摘されていました。

現在90歳を超えた国分の教え子たちを取材すると、今もその教えを胸に刻む一方、先生が突然弾圧された当時の悲しみや戸惑いが大きいものだったことを語ってくれました。また、師範学校時代に自らが描いた絵が治安維持法違反とされた北海道の男性は、弾圧の恐怖と戦争への怒りを強く訴えていました。

私には、3歳と生後4か月の息子がいます。「忖度」「KY」「炎上」など閉塞感が漂う現状に危機感を抱いています。また、現在の教育で生活を表現する機会が少なくなっていることへの懸念もあります。子どもたちが自由にのびのびと表現できる未来であってほしいという思いを同世代の親や学校の先生をはじめ多くの方々と共有したいと感じています。

番組は50代、40代、30代(私)の3人のディレクターが力を合わせ、それぞれの持ち味と思いが結集した作品になりました。今後もマスメディアの社員として社会、地域に目を凝らし、志と良心に従って発信し続けたいと思います。

              ※民教協の正式名称は公益財団法人民間放送教育協会

アンビシャス賞

「大黒座ベイ・ブルース ~創業100年、人生を映す~」(3月17日UHB)制作:北海道文化放送

地域の営みの意味を見詰めた

                  ディレクター 湊 寛

この度は素敵な賞をいただき、ありがとうございます。取材を始めたのは一昨年の夏でした。全国のミニシアターを紹介する本で浦河町の大黒座が100年を迎えることを知り、ニュースの特集にちょうど良いと考え、大黒座に取材依頼の電話をしました。すると館主が出て、「まずは映画を見に来てください」と言われました。1週間後に行ってみると、映画館のロビーには猫が寝ていて観客は私を含め3人だけ。上映されていたのはキルギスで製作された「馬を放つ」、なかなか渋い作品です。

館主の三上さんに何故この映画を上映したのか尋ねると「なんとなく、やる必要があると思った」との返答。柔和な表情の奥に強い芯のようなものを感じました。

大黒座では子供向けアニメから社会派ドキュメンタリーまで、幅広いジャンルの映画が一つのスクリーンで上映されます。作品を選ぶのは三上さんご夫婦です。単にヒット作や話題作ではなく“今上映する必要がある”ラインナップが並びます。観客は“三上さんが選んだ作品だから”と信頼して大黒座に足を運び、上映後はロビーで感想を話し合います。

ネット社会へと変化し、人との繋がりが希薄化する現代において大黒座のような存在は貴重です。人口13000人に満たない浦河町で映画館を経営することは、大変なご苦労だと思います。

今回の受賞にあたっては、気骨ある映画館・大黒座の歩みが評価された結果だと受け止め、浦河町の皆様と一緒に喜びたいと思います。

入選

ETV特集「原発事故 命を脅かした心の傷」(3月2日Eテレ)制作:NHK福島

「心の内」の声に耳を傾けて

                   NHK福島放送局 籾木佑介

「フラッシュフォワード」。震災後、福島に赴きメンタルクリニックで診療を行う蟻塚亮二医師が口にした聞き慣れない単語との出会いが、取材の出発点となりました。

これは、戦争や災害などで過去のトラウマが蘇るフラッシュバックとは異なり、先の見えない未来に対する不安に苛まれる心理状態を指します。チェルノブイリの事故後、欧米の研究者が唱えた概念ということでした。

言いしれぬ不安や将来が描けない絶望が人々にあることは取材で漠然と感じていたので、それが人々を苦しめるという話は腑に落ち、この独特の心理状態を理解の助けに福島の実情に迫れないかと考えました。 

こうした福島特有のメンタルヘルスの状況と密接に結びついていたのが震災関連死の問題でした。福島では犠牲者が2300人を超え、今も認定されています。その原因を探るためたどり着いたのが、避難中の生活や体調変化が克明に記された「経緯書」の存在です。

亡くなるまでの経緯を読み、遺族の方々に話を聞いていく作業。幾人もが「事故前はあれほど元気だったのに」「原発事故さえなければ」と仰いました。

故郷喪失から心身ともに急激に衰えていった過程をたどることは衝撃でした。そして、番組では、いまなお「心の傷」を抱える人たちへの取材を行っています。原発事故後、語りあえなかった悲しみと、それに蓋を閉じて過ごしてきた苦しみは、癒えることはないと気づかされました。そして耳を傾け記録を続けていかないといけないと思います。

この度は素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございました。

 

 “泣く”ことのできない社会を問い続ける

                 ディレクター   小林 涼太

宙ぶらりんの生活で、“生きている”感じがしない」

今回の番組で取材させていただいた、原発事故によって福島から避難されている女性の言葉です。ふるさとには帰れない、しかし避難先に馴染むこともできない…まさに“宙ぶらりん”の生活の中で、生きる気力を奪われて心を病んでしまう、そして誰にも相談できない孤立の中でそれが深刻化していく。

そんな暗闇の中にいた彼女が今回の番組で相談に訪れたのは、福島の心の問題に寄り添い続ける精神科医・蟻塚亮二さんです。避難の経験やその中で苦しかったこと、辛かったことを時に涙ながらに語る彼女の言葉1つ1つに、蟻塚さんは耳を傾けていました。その現場に、カメラを入れさせてもらいました。

「泣くことは決して後ろ向きではない。悲しむこと、泣くことは、被災者が希望を見出す第一歩になる」。蟻塚さんは“泣く”ことの意味を強調します。

“被ばく”に対する偏見や差別、賠償金を手にしたことによる後ろめたさ、子供がいじめられるのではないかという不安…原発事故によって避難させられた方々の中には、そうした思いから自らが避難者だということを隠している人も少なくありません。

彼らから“泣く”権利を奪っているのは、彼らが“泣く”ことのできない社会をつくっているのは、私たちではないか。蟻塚さんの問いかけを胸に、これからもこの問題と向き合っていこうと思います。この度はこのような賞をいただき、ありがとうございました。

〝弱い人〟に耳傾けられる記者に、思い新た

                 記者 三宅大作                                                

このたびは、栄えある賞をいただき、ありがとうございます。番組では、震災関連死についての取材を担当しました。震災と原発事故から8年がたっても、福島では犠牲者が増え続けているという、目を背けてはいけない事実と遺族の心情を、科学的な視点を忘れずに迫りたいと取材を進めました。

取材は簡単ではありませんでしたが、それ以上に、何年たっても変わらない、福島の過酷な現実と遺族の悲痛な叫びを、きちんと伝えられるのか不安でした。今回の受賞を、少しでも多くの皆様に伝えられたと評価していただいたのだと受け止め、とてもうれしく感じています。受賞を励みに、“弱い人たちの叫び”“声なき声”に耳を傾けられるジャーナリストとして邁進していきたいと思います。どうもありがとうございました。

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