【活字部門】
▷大賞 安倍元首相の国葬文書隠蔽を暴く「記録のない国」、関生コンへの弾圧を描く「人質司法 悪党たち」
市民と共に歩み、 高市政権の暴走を止める
報道機関Tansa編集長
渡辺 周
今ほど、権力と闘う必要性がある時はありません。高市早苗首相が率いる自民党政権が、衆議選でのかつてない大勝を受け、暴走しているからです。高市政権は、戦争と基本的人権の蹂躙をもたらす可能性があります。「国破れて自民党あり」という惨事は、イデオロギーなど政治的立場や職種、年代や性別にかかわらず誰もが望んでいないはずです。
しかし、新聞やテレビといった伝統的なマスメディアは、もはや報道機関としての役割を放棄していると私は考えています。権力監視というジャーナリズムの使命よりも、ビジネス組織としての生き残りに必死だからです。ペンは剣に負ける前に、パンに負けてしまいました。
Tansaは、権力との闘いを重視して活動してきました。『記録のない国』で「国葬文書」の隠蔽を暴き、『悪党たち』では安倍政権下で始まった労働組合『関西生コン』への弾圧の仕掛け人たちを追及。衆院選中は、統一教会の内部文書「TM特別報告書」を検証し自民党と教団との癒着を明るみに出しました。
専業メンバー5人というTansaのような小さな組織にとって、権力と闘うということは、心身をすり減らす日常を送るということです。取材・編集だけではなく、運営資金も自分たちで獲得せねばなりません。
それでも、晴れやかに権力に立ち向かっていけるのは、市民の方々の風を背中に感じるからです。メディア・アンビシャス大賞を受賞し、私がこの上なく嬉しい理由は以下のメディア・アンビシャスの活動理念にあります。
「情報のありようは、民主主義の行方を示します。市民一人ひとりは情報を基礎にして判断します。その情報を送り出すメディアの活動は市民の立場に寄り添い、未来を拓くものであってほしいと願っています。市民とメディアが互いに信頼する関係にあってこそ、民主主義は正常に機能すると考えています。当会の活動は、私たち市民とメディアの協働を目指すものです」
背中で風を受けるだけではなく、ジャーナリズムという理念を共有しながら、市民と共に歩んでいこうと思います。
▷メディア賞 沖縄・牛島司令官の辞世の文言改ざん
今に続く歴史歪曲の心性に痛打
沖縄タイムス社会部副部長(文化担当)
知念清張
「牛島司令官の辞世の文言改ざん」報道を沖縄から遠く離れた北海道・札幌の「メディア・アンビシャス」の会員のみなさんが、メディア賞に選んでいただいたことにまずは感謝したい。同時に不思議な縁も感じた。沖縄戦の死者は、地元を除いて、北海道出身の死者数が1万人余りと突出して多いからだ。
沖縄戦を指揮した日本軍第32軍の牛島満司令官が自決する前の1945年6月18日に大本営に送った決別電報で書かれた戦況報告や「辞世の句」までもが、軍中央によって、本土決戦へ向けた戦闘継続と国民の戦意高揚を図るために書き換えられ、メディアを通じて発表されていたことを明らかにした。
沖縄国際大学非常勤講師の吉川由紀さんが、国立公文書館アジア歴史資料センターの暗号電報の訳文などから確認し、一緒に、当時の新聞資料と照らし合わせて、報道にこぎつけた。
沖縄が陥落寸前であることは文言自体が削除され、「阿修羅となりて敵兵を撃殺せん」などと勇壮な文言に変わり、牛島の悲壮な報告は、隠蔽された。
しかし、これは80年前の現在とは関係のない話なのだろうか。
「南西有事」が声高に叫ばれ、これまで基地がなかった石垣島をはじめ、南西諸島を中心に日本全国で自衛隊基地の強化が進む。米軍との共同訓練も規模が拡大されている。
熊本市の健軍駐屯地には、敵領域の基地を攻撃する「反撃能力」(敵基地攻撃能力)に位置付けられる陸上自衛隊の長射程ミサイルが3月末に配備されるなど基地強化が加速化している。
戦中まで陸軍省と海軍省の管轄だった靖国神社への自衛官の集団参拝、氏子総代にあたる崇敬者総代には元陸幕長が就任し、靖国神社の長である宮司に元海将が就任した。先の大戦の肯定とも取られかねない行動や人事は、自衛隊の日本軍への先祖返りを疑わせる。
沖縄の陸上自衛隊が、県民の強い批判にもかかわらず、牛島司令官の辞世の句を公式サイトに掲載し続けていることは理解できない。
国防は、地方自治体の手が届かない「国の専管事項」とされ、軍事機密の名の下に、情報が政府の立場でコントールされやすいという事実は戦時中も、今も変わらないのではないか。
先の大戦、そして現在進行しているアメリカ・イスラエルのイラン攻撃やロシアによるウクライナ侵攻を見ても、真っ先に犠牲になるのは、罪のない子どもや一般住民だ。二度と南西諸島をはじめ日本が戦場にならないためにも、政府の独断や暴走、一方的な発表に追従しないメディアの役割を果たしていきたいと思う。
▷アンビシャス賞 「戦禍とアイヌ民族」=記者がたどる戦争特別編
構造的に生み出される〝差別〟の表裏
北海道新聞報道センター記者
武藤里美
このたびは栄誉ある賞をいただき、心から光栄に存じます。
「戦後80年」の年の幕開けに、北海道らしいテーマとして私たちが選んだのが「戦禍とアイヌ民族」でした。
取材の中で当時を生きたアイヌ民族たちからは「自由なのは家の中だけ。警察はアイヌを見張っていた」「祖父母はアイヌ語が堪能だったが、自分には教えようとしなかった」との体験談を聞きました。当時の新聞報道には「亡(ほろ)び行くアイヌ民族」「土人の生活に“活”」など、アイヌ民族を見下した表現が散見されます。アイヌ民族への差別は戦時中も続いていました。
他方で、遺族の証言や当時の報道からは旧日本軍の一員として勇敢に戦ったアイヌ民族の逸話も浮かびました。戦場で先頭に立った人。短銃のみを携えて敵地で情報収集に臨んだ人。危険を顧みずに戦地で奮起したアイヌ民族の逸話は枚挙にいとまがなく、「軍隊の中は平等だった」という言葉もありました。
「戦時中も差別は続いた」「軍隊の中の平等」という一見相反する証言を、どう解釈すべきか。これが取材を進める中での大きな「問い」となりました。
取材を通して見いだした一つの答えが、「差別」の末、「和人と肩を並べて戦えば平等になれる」と考えたアイヌ民族がいたのではないか、ということでした。米国や英国では第1次世界大戦を経て女性の参政権が実現するなど、他国では社会的弱者や少数者が戦争参加を通じて権利や平等な地位を獲得した歴史があります。日本軍も兵士確保のためにアイヌ民族も「皇軍の兵」として扱う一方、軍隊の外ではその論理は働かず、アイヌ民族の切なる願いはかなわなかったのではないかと思います。
「差別」の結果として、和人と平等になるために日本軍に「同化」する。一見真逆に見える差別と同化が同時に進んだのがあの時代だった。この結論にたどり着いたとき、この状態は現代になっても何も変わっていないのではないかと思い至りました。
アイヌ民族への差別的な言動を取った杉田水脈元衆院議員をはじめ、交流サイト(SNS)にはアイヌ民族への侮蔑的な言葉があふれています。北海道の23年度の調査では「差別を受けたことがある」と答えた人が17年の前回調査から6ポイント近く伸び、約3割に達しました。
一方で、SNSを中心に「アイヌ民族はいない」と同化を強調する投稿も目立ちます。「何を言われるか分からないから、自分がアイヌ民族であるとおおっぴらには言えない」と嘆く女性の声を聞いたこともあります。
80年経ってもマイノリティに対する姿勢が変わらない日本社会。それどころか社会の閉塞感の責任を弱者に負わせるのが近況ではないでしょうか。企画を通して、その流れに一石を投じることができていれば幸いです。
▷アンビシャス賞 フォーラム「女性トイレの行列を考える」
日常の疑問掘り起し、浮かび出る本質
朝日新聞社編集委員・デジタル企画報道部編集長
山下知子
このたびは栄誉ある賞に選んでいただき、本当にありがとうございます。トイレの行列に悩む、多くの女性たちとともに喜びを分かち合いたいと思います。
取材のきっかけは、東京都在住の行政書士、百瀬まなみさんとの出会いでした。ご自身の経験から、男女別のトイレの便器を数えている百瀬さん。「女子トイレの方が便器数は少ないんですよ」と聞いた時には、驚きました。
体の構造上、女性の方がトイレに時間がかかります。なのに、女性の方が便器数が少ないなんて! 百瀬さんの2025年1月時点の調査では、一つのトイレにおいて、女性の便器数1に対し、男性は1・76。女性用便器の方が多いトイレは、706カ所中28カ所でした。
百瀬さんは公衆トイレの入り口にある見取り図「トイレ案内板」を使って便器数をチェックしています。まさに「足で稼いだ」数字。私も都内や出張先のトイレで数えるようになりました。80カ所調べて、ようやく、大阪市内で女性用便器が多いトイレを見付けることができました。
2025年1月に報じると、大きな反響がありました。女性からは「並ぶのは当たり前だと思っていた」「女性が外に出ることを想定していない社会なのか」「設計者に男性が多いのでは?」。男性からは「男性も個室トイレで並ぶ」「小便器はプライベートゾーンがみえる。人権侵害」といった声が届きました。
二つの気づきがありました。
一つは、トイレに物申したい人が多いのではないか、ということ。6月に朝日新聞上でアンケートをとったところ、1705件もの回答が寄せられました。それをもとに、賞をいただいた紙面を作りました。
二つ目は、日常の「当たり前」を疑う視点です。多くの人が不便を感じている、なんだかモヤモヤする。そういったところにこそ、この社会の根深い課題があると考えました。読者とトイレについて語り合う会をこの3月に開いたところ、たくさんの「当たり前」があがりました。
「夫婦の姓も、女性が姓を変えるのが『当たり前』でしたよね」「いまもさらりと『入籍』の言葉が使われていません?」「女性特有の病気は婦人科だけど、男性は泌尿器科でジェンダーニュートラルな表現。どちらの性別が『基本』なのか分かる」「駅の改札は右きき用。左ききにはつらい」
昨年6月、当時の石破茂首相が、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に「女性トイレの利用環境の改善」を明記しました。国交省はこの3月、公共空間のトイレについて指針を出します。この報道が社会の何かを少しでも変えたのならうれしい限りです。さらにこの受賞をトイレの行列解消の第二歩、三歩にできたら、と思っています。
【映像部門】
▷大賞 NNNドキュメント「言えない心のうちがわを 家庭内の性虐待・子ども達の葛藤」
当事者の声に鍛えられて
日本テレビ ディレクター
植田恵子
この度は栄えある賞をいただき、ありがとうございます。2019年に、性被害の影響をテーマに番組を制作した時にも大賞をいただいたことを振り返り、背を押され勇気づけられる思いです。
家庭の中の性虐待は、誰にも言えないまま長期間にわたって続くことがめずらしくありません。すぐに保護につながる子はごく一部で、多くの子ども達は「被害だと気づかない時間」「被害を隠そうとする時間」「被害を言えない時間」を抱えたまま、一定期間を過ごします。そして場合によっては、大人になってもなお、加害親に逆らえないまま、被害が継続することもあります。
今回番組で力強い証言をしてくださったSIAb.(シアブ)のみなさんは、「あの頃の自分と同じ思いをしている子ども達に届けたい」と、さまざまな「言えない心のうちがわ」を聞かせてくれました。
グルーミングや暴力、恥の感情や無力感、恐怖。あるいはそれがすっかり「日常」と化して当たり前のように過ごした時間。身体的な反応が起き自らを責める気持ち。親への愛情と嫌悪。さまざまな要因が子ども達を混乱させ、言葉を奪います。そして、その混乱を理解し受け止められる大人の少なさが、子ども達の沈黙に拍車をかけます。
実は私自身、16年前はじめて10代の女の子に性虐待の葛藤を聞かされた時に、言葉を失い、混乱をほどくことができなかった大人のひとりです。当事者が孤立せず、すこしでも呼吸がしやすくなるように、すこしでも理解が深まるように、これからも当事者の声に学びながら、伝え続けていきたいと思います。
▷メディア賞 FNSドキュメンタリー 警察官の告白~鹿児島県警情報漏洩事件を問う~
「信頼されているか」報道の原点学ぶ
鹿児島テレビ ディレクター
前田慎伍
この鹿児島県警の情報漏洩事件は、私たちが今まで経験したことがない、あり得ないことの連続でした。警察官が次々と逮捕されただけでなく、その逮捕容疑は「メディアに情報を流した」という、私たちの取材行為そのものを取り締まることができる信じられないものでした。さらに、逮捕された元生活安全部長は「本部長が警察職員の犯罪を隠ぺいしようとしたことが許せなかった」と組織のトップの隠蔽疑惑を名指しで糾弾しました。“日本警察の父”と言われた旧薩摩藩士・川路大警視のお膝元で、このようなことが起きた事実は問題の根深さをより鮮明にした、重いものでした。
また、警察の組織の問題だけでなく、私たちメディアの在り方が問われた問題でもありました。今回、鹿児島のメディアではなく、他の県のジャーナリストたちに情報が寄せられ、この問題が発覚しました。“私たちメディアは、地域の人たちに信頼される存在なのか”、そんな重い問いかけを突きつけられました。
プロデューサー、ディレクター、記者、全員が現場に向かい、一つ一つ悩みながら取材し、放送を重ねました。60本を超えるニュースや企画を放送したことで、ドキュメンタリー番組へと繋がりました。今回の受賞は小さな地方局でもジャーナリズムの精神を忘れず、弱者の視点に立って伝えることを忘れないよう、激励を受けたと思っています。これからも南の鹿児島から地域の人々のために放送していきます。
▷アンビシャス賞 報道特集「兵庫県知事関連報道」
ネットの中傷に負けない報道を
TBSテレビ 報道特集取材チーム
この度は、このような栄えある賞をいただき、スタッフ一同心より御礼申し上げます。今回のキャンペーン報道は、兵庫県知事による公益通報者への対応の問題から始まりました。しかし、一昨年11月の知事選以降、ネット空間における大量の誤情報や誹謗中傷の拡散という問題へと波及し、貴重な人命が失われる事態も相次いで起きました。キャンペーンは選挙や民主主義の在り方を問うものにもなっていきました。
取材は、これまで経験したことのないことの連続でした。番組や出演者、そして、私たちスタッフ個人に対しても、SNSを中心に激しい誹謗中傷が大量に浴びせられました。取材先で見知らぬ人物から批判とは程遠い言葉を投げかけられることもありました。
こうした状況下でも怯まずに伝え続けることには、かつてない困難が伴いました。しかし、私たちが歩みを止めなかったのは、大きなリスクを背負いながらも「真実を明らかにしたい」という信念で、私たちのカメラに答えてくださった方々がいたからです。
この賞をいただくにあたり、困難な状況下でも勇気を持って取材に協力してくださった方々に、改めて深い敬意と心からの感謝を申し上げたいと思います。メディアの役割が厳しく問われている今、この受賞を大きな励みとし、これからも怯むことなく報道を続けていく決意です。
▷アンビシャス賞 Eテレ「フェイクとリアル 川口 クルド人 真相」
「グレー情報」は社会の複雑さ反映
NHK Eテレ ディレクター 小黒陽平
同 青山浩平
この度は、名誉ある賞をいただき、身に余る光栄です。
今回の取材の原点は、川口に暮らすクルド人の方々をめぐって、ネット上で飛び交う激しい言葉の数々を目にしたことでした。一体、何が起きているのか。その実態を確かめたく、私たちは取材を続けてきました。
日本人住民、クルド人、専門家。様々な立場の声を聞く中で突きつけられたのは、SNSなどの限られた文字数の中でこぼれ落ちる、ままならないほどに複雑な現実でした。
ネットにあふれる情報がすべてデマだとはいえません。そこには確かに人々の切実な不安や実体験が、断片として混ざっています。また、クルドの人々の中にも、懸命に地域に溶け込もうとする人もいれば、課題を抱えた人もいる。現実は、「白か黒か」の二元論でなかなか語ることのできない、無数の「グレー」にあふれているように見えました。
しかし、ネットの海では、そうした複雑さは置き去りにされ、一瞬で心をつかむキャッチーな言葉が、勢いよく支持を集めて広がっていきます。かくいう私も、取材中、分かりやすい正解や、安易な結論に飛びつこうとする自身の危うさを、何度も突きつけられました。
今やネットの情報は、選挙などの重要な意思決定を左右する大きなうねりとなっています。だからこそ、心地よい結論や物語に流されない、冷静さが求められているように感じます。
この受賞を糧に、これからも複雑な現実のありのままを真摯に追い続けていきたいです。
▷アンビシャス賞 テレビドキュメンタリー「解放区」_受忍“耐え忍ぶ国”の終わらぬ戦争
〝モヤモヤ〟の実相は「受忍」
TBSテレビ 報道1930 チーフディレクター
石川瑞紀
日曜深夜の放送でしたが、志ある取り組みをされている皆様の目にとめていただき感謝いたします。大変励みになります。
我慢強さは日本人の美徳とも言われますが、その我慢強さに日本の政治は胡坐をかいていないだろうか。そんな思いを震災や福島の原発事故 などで被害を受けた市民を見て感じてきました。
旧ジャニーズや女性への性加害問題を取材、特集したときもそう。被害を受けた側が、なぜこんなにも沈黙し、耐え忍ぶことを“強要”されるのだろうか、と。そんなモヤモヤした思いを抱える中、ノーベル平和賞を受賞した日本被団協の田中煕巳さんが授賞式で行った「受忍論」を批判するスピーチに驚き、取材をスタートさせました。
「国民みな等しく耐え忍ぶべし」と、民間人の戦争被害者に我慢を強 いている「受忍論」は、戦後の日本の、日本人の、何を映しているのか と取材を重ねました。もともと行政や司法に押し付けられたはずの「受忍論」を、もしかしたら私たちは無意識に自ら受け入れてきたのではないのか、そんな疑問も浮かびます。そして85歳の女性をいまだ毎週国会の前に立たせる日本の「戦後」とは一体何だろうか、と。
「私たちにはまだ戦後は来ていない」という女性の言葉が重く残ります。


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