メディア・アンビシャス(シンポジウム・例会など)
資料① 2009年
【発足当初】
(設立の集い)
「メディア・アンビシャス」設立の集いは、2/23(月)19:00~シアターキノで行われました。当初会員申し込みなどが少なく、20~30人も集まればとの世話人会の気持ちでしたが、シアターキノA館の63席が、ほぼ満席になるほどで、世話人によるメーリングリストなどの呼びかけ以外に、前日や当日の北海道新聞や朝日新聞の地方欄に小さいですが紹介された事が、少なくない影響を与えたものと思われ、やはりマスコミの力は、むしろ十分に機能していることを確認することになり、これからの私達の活動も、微力ではあっても、重要なことと思いを新たにするものでした。
さて、その集いは、「光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~」の上映後、阿部野ディレクターに、この作品についてお話しいただきました。阿部野さんの語ったポイントは、「正直言って、大変しんどい番組制作でした。鬼畜弁護団を取材している、鬼畜取材班といわれた。発端は、冤罪の可能性がある名張毒ぶどう酒事件の弁護団に村上弁護士がいて、光市のこの事件に対して、村上氏がどのように思っていたか、弁護士に力点をおいて考えたいと思ったのと、誰もやっていない、どの報道も入っていないところを取材したいという、ジャーナリストの本能的なこともある。しかし、スタッフの家族のほとんどは、取材班に入らないでくれとか、これには関わりたくないというのが半数以上いた。僕にも、生まれたばかりの子供がいるのでそれはわかる。ナレーションをやっていただいた寺島しのぶさんも、初めは生理的にいやだと思っていたが、フランス人の夫からやってみたらと言われて、やってみて良かった、と言ってくれた。考えが変わっていくこともあるのだと感じてくれた。そうやって、難産の上にできあがった番組放映後、約250通のメールがあって、とても大きな反響だった。7割はよく作ったと言ってくれ、それはとても大きなことだった。ボコボコに叩かれる覚悟をしていたので、このことは社内的にも、大きな力になった。<!–more–>
しかし、実際にこのような状況を作ったのは、お前たちメディアではないのかといった意見をはじめ、メディア批判も多くもらった。その中で、僕は、このようなこと(勿論殺人という意味ではなく、事件に巻き込まれるという点において)が、誰にも起きないとは決して言えず、その時に、弁護士って一体何をしてくれる人なの?弁護士は鬼畜ではないし、このままでは弁護士がいなくなってしまうのでは、とまで思いもした」
そのあと、山口二郎代表からあいさつがあり、
「昨年はメディア状況は大変厳しい年だった。朝日が初めて赤字になり、TV局も赤字転落が次々におきている。その状況下で、メディアの内実もまた、危機的になっており、メディアの今は、どうなっているのか、連続的なシンポジウムの中で語り合ってきた。そこで感じたのは、ほめることの重要性だ。私達は批判だけでなく、何をすればいいのかと考え、葉書一枚でも変わることもあると思った。市民の側でメディアを評価し、鍛えていくことが大切。いいものを発見し、世に発表し、社会に訴えていくことが大切だ。皆さんと一緒に始めたいと思います」
その後、山口代表が司会で、阿部野ディレクターと中島岳志准教授で、パネルディスカッションを行った。発言から、一部ピックアップしました。
■「その時歴史が動いた」という番組があるが、そんな風に単純に歴史は動きはしない。歴史も社会も複雑なのだが、単純におとそうとする。メディアはズバッ!とか斬る!とかの司会者がいうのが受けてしまっているように、メディアが問題なのは、「わかりやすく」ではなく「単純化」しようとしていることだ。
■裁判員制度ができて、大きく司法が変わるが、陪審員として裁判に関わったとき、怖いのは、世間を読み、ある流れに迎合する可能性が非常に高いことで、今回の「光と影」のように、もし自分が死刑ではないと思っても、はっきり言えるだろうか。陪審員は秘密にといっても、ネットなどで必ず暴かれる。ネットで、誹謗中傷がワッとくる覚悟で、死刑ではないと、勇気を持って言えるだろうか。
■世論は、パブリックオピニオン(公的意見)と、ポピュラーセンチメント(気分)で構成されるが、今の世論は明らかに、気分だ。それぞれが勝手に忖度(そんたく)してしまう。
■小泉政権で、「わかりやすさ」ではなく「単純化」が一気に進んだ。物事の複雑さを受け止めるのではなく、単純化を求める「わかりやすい病」にかかっている。二元論におちいらず、余白を見る力が、私たちにはあるはずだ。
■感情は、感情的と批判的に言われる面と、豊かな感情といったように、評価されることもあり、表裏がある。感情の内容は複雑で、涙したとか感動したとかでは語れない。番組を作って感じたのは、本村さんの想いを越えた、熱狂を生んでしまっている。
■刑事裁判は、原告が国家で、被告と対する。仇討ちを避けるために、被害者になりかわって、刑罰を与える。いわゆる復讐ではないことを、近代法として成立させたが、被害者家族への、異常なコミットメントによって刑罰の根底が変わりつつある。権力の性質が大きく変化している。
■今のメディアは善と悪、正義と悪という二項対立の型にはめたがっている。そして視聴者は多数派の正義に身をおいて安心したい。メディアは本来、見えないものを見せてくれるものであり、そんなの見たくないという人が増えているが、見ないことには話が進まない。
■被害者家族は、被告に対して何を言ってもいいとの風潮の中、メディアが本村さんになりかわって、正義といいはじめた。3割ぐらいでよくくる抗議に、本村さんが見たらどう思うのか、あんたはわかっているのかと、被害者でもないのに、本村さんに成りかわっている人がいる。
■取材は、どこからでも許されるはずなのに、縛ろうとする。記者クラブもクローズで、横並びになってしまい、突出した取材ができなくなっており、視点をずらすことができなくなっているのがメディアの現状と言える。
<h4>世話人会で</h4>
この集いの前に、世話人会の打ち合わせがあったが、設立の集いでも議論になった、目前の裁判員制度とメディアの関係をどう捉えるか、一度きっちり話し合った方がいいということになり、4月下旬をめどに、弁護士、メディア、世話人が一堂に会した、シンポジウムを行うことになりました。
以上、不備な点も多い報告になりましたが、無事、設立の集いが終了し、その後、3/3に事務局会議を経て、3月中になんとかメーリングリストをスタートさせ、会員の皆さんでメディアウォッチングをしていくことにしていきたいと思います。(中島洋)
(呼びかけと山口二郎代表挨拶)
私たちの思い
1995年のオウム事件以降、マスメディアによる治安権力への監視の停滞、その後の治安の悪化を過剰に煽る事件報道などにより、監視・統制を望み厳罰主義を求める民意が高まり、それを追い風にますます治安権力が暴走し、民意はさらに、右か左か、善か悪か、早く結論がほしいといった単純化を求める思考停止状態が拡がり、メディアリテラシーがほとんどないような状況が生まれています。
例えば、まもなく始まる裁判員制度は、民意をメディアが煽るような状況で本当に冷静な判断ができるでしょうか。新たなメディアファシズムが生まれる可能性がないとはいえません。
実際に起きていることの事実は一つしかありませんが、それを伝える表現方法は無数にあり、メディアを通じた真実(表現された真実)は、その送り手の数だけ生まれます。送り手、受け手、双方の中にそれぞれの考えるべき真実があり、それがメディアリテラシーなのだと思います。だからこそ、メディアの視点は一面的ではなく、多面的であること、多様な視点があることが重要であり、そこからこそ、強い権力を監視し、少数でいることを恐れないジャーナリズム、メディア表現が生まれてくるのだと思います。
私達は、近年ますます強くなっているメディアスクラム(集団的加熱取材)、危機と不安を煽るマスメディア状況の中で、それでもメディアリテラシーの大切さを思い、多面的な視点でとらえようとする番組や報道が決してないわけではないことを知っています。少数になることも恐れずに番組を作り、報道している人達が確実にいることも感じています。
マスメディアを批判することも勿論必要ですが、私達は、メディア状況をよりよく改善していくために、そのような人達を、スタッフを、多面的な視点でとらえた番組や報道や表現を、むしろ、より積極的に応援していこうと考えました。
クラーク博士の”ボーイズ・ビー・アンビシャス”に倣うわけではありませんが、志を持ち、それぞれの良心に従って伝えていこうとする人達を、私達は、年に数回、勝手に表彰して応援しようと思います。
より良いと感じた番組や報道を応援し、それらが少しずつ増えていくこと、そのことがメディア状況の改善に、少しでも役立つ事を願って、私達の活動を始めたいと思います。メディアリテラシーの大切さを思う多くの方々のご参加をお待ちしております。
やろうとしていること
趣旨に賛同する者達が会員となり、TV、ラジオ、新聞、月刊誌など、原則として北海道で視聴か入手できるものを、それぞれのできる範囲でメディアウォッチングし、自身が良いと考える番組や報道を、会員のメーリングリスト上で推薦します。同じくメーリングリスト上で(たまには集まって)議論、意見交換し、年に数回、推薦作の中から勝手に応援し、表彰する対象を選定し、推薦理由などと共に記者発表します。
TV番組などは、TV局などに再放送の要請をしていきます。
市民メディアの発展のために、ネットメディアも次の段階では対象にしたいのですが、現在の段階では、ネット以外のマスメディアを対象とします。
回数や、表彰方法など具体的なことは、メーリングリスト上の会員で議論し、世話人と事務局で決めていきます。
山口二郎代表挨拶
「メディア・アンビシャスの目指すもの」
民主政治のあり方が問われている今、私たち市民が自ら情報を集め、政治や社会に対して態度を決定することが求められています。
私たちが直接見聞きできる範囲はごくわずかであり、情報を得るためにメディアは不可欠です。したがって、これからの政治を立て直すためにも、メディアは決定的な重要性を持っています。
この間、様々な出来事が新聞やテレビをにぎわせました。たとえば、小沢一郎民主党代表の政治資金をめぐる問題。北朝鮮の「ミサイル」発射。メディアはこれらの事柄について、どこまで多面的に伝え、真相に迫ったのでしょうか。メディアが政府の流す情報をそのまま国民に伝え、特定の世論を形成することに荷担しているのではないかという疑いをぬぐうことはできません。
メディアが権力の意に添ってステレオタイプを作り出す時、民主政治は崩壊します。自由で多様なメディアを作り出すことは、情報の消費者である私たち自身の役割です。ステレオタイプに陥るメディアを批判すると同時に、優れた報道を行ったメディアを市民の側から高く評価し、力づけることこそ、健全なメディアを作り出すための鍵となります。
このような問題意識のもとに、メディアに関心を持つ市民の自発的な運動として、メディアアンビシャスを立ち上げました。北海道を中心として、優れた報道を行うメディアを励まし、情報を共有する試みを広げていきたいと思います。同時代に関心を持つ市民の方々の参加を呼びかけます。
2009年4月 山口二郎
(会則、会員資格、世話人など)
会則
第1条(名称)本会の名称は、「メディア・アンビシャス」とする。
第2条(目的)本会は、マスメディアの状況をよりよく改善していくために、より良いと感じた番組や報道を積極的に応援し、メディアリテラシーを広げることを目的とする。
第3条(活動)本会は、前条の目的を達成するため次の活動を行う。
(1)テレビ番組・新聞報道についての情報交換
(2)良い番組や記事の表彰
(3)その他、前項のために必要な事業
第4条(会員)本会は第2条の目的に賛同する個人により構成する。
第5条(組織)本会の役員及び職務は次のとおりとする。
(1)代表 1名以上 会を代表し、会の運営を統括する
(2)世話人 5名以上 会の運営に携わる
第6条(会員)本会に入会を希望する者は所定の入会申込書に会費を添えて申し込む。入会の承認は世話人会に諮るものとする。
2 会員は届け出によって退会することができる。ただし次の各号の1に該当するときは退会とみなす。
(1)会の解散
(2)会の名誉を著しく傷つけたとき又は規約及び世話人会の議決を遵守しないときは、世話人会の議決により除名することができる。
第7条(事務局)この会の事務を処理するために事務局をおく。
2 事務局は、世話人会の議決に基づき、事務を処理する。
3 事務局は、札幌市中央区南3条西6丁目シアターキノ内におく。
第8条(財政)本会の財政は、会費および寄付金その他の収入をもって充てる。本会の会計は、事務局が行うものとする。
第9条(解散)
本会は第2条の目的を達し、世話人会において活動の決算に関し承認が得られたときに、その議を経て解散するものとする。
第10条(協議)
この規約に定めのない事項については、世話人会において協議の上定めるものとする。
附則
この規約は、2009年1月5日から施行する。
会員 ▷一般会員 3000円
▷ 学生会員 1000円(社会人枠の人は一般になります)
▷オブザーバー会員 3000円
※実際のマスメディアで仕事されている方は、最終選定の決定権はありませんが、オブザーバー会員として参加できます。
■代表 ※以下の肩書は当時申告のママ
山口二郎(北大大学院教授)
■世話人
秋山孝二(秋山記念生命科学振興財団理事長)
加藤知美(北海道NPOサポートセンター理事)
菊地寛(日本放送作家協会北海道支部事務局長)
樽見弘紀(北海学園大学教授)
中島岳志(北大大学院准教授)
萩本和之(元新聞記者、大学教員)
吉田徹(北大大学院准教授)
玄武岩(北大大学院准教授)
山本伸夫(元北海道新聞記者※設立より遅れて加入)